掲示伝道(7月no2)
「 蛸壺や はかなき夢を 夏の月 」芭蕉詠
あらゆるものが眠りについた如く、静寂に包まれた夏の夜の海。ただ何もかも見透かしているかのような和らかな月の光が水面をてらしている。その静かな海の底では、漁師の仕掛けた罠とも知らず、安全快適な住居と思ってか、蛸壺に入り込んで夜明けには引き上げられる身とも知らず、楽しい一夜の夢でも見ているのだろうかといった光景が此の一句から泛んでまりいます。
私たち人間も自身の幸せを願って、此の大学に入学できれば、此の会社に入社できれば、此の資格さえ得ることができれば、また此の地位に付くことができればと、人を蹴落としてまで勝ち取ろうとしていますが、若しそのような願いが叶ったとしても、それは蛸壺の蛸と同じ様に思えてなりません。人間の本当の仕合せにとって、地位や名誉、財はひとつの条件というか、道具といえなくもないと思えますが、しかし、絵筆を揃えたからといって、立派な絵を描けるものではない如く、地位や名誉や財を得ても、決して仕合せになれるものとは思われません。むしろ、幸せの条件のように思われる地位や名誉や財等々からの執着を離れた処に、人間としての仕合せがあるのではないでしょうか。
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